2012年11月6日火曜日

風邪と映画3本 ③阪本順治『どついたるねん』


 風邪、治りかけのまま膠着状態です。今季の風邪は長引くとは聴いていましたが、もうそろそろウンザリですね。

 昨日は阪本順治の『どついたるねん』を見ました。普段スポーツはあまり興味ないしそういった映画も見ず、ボクシング映画は『ロッキー』すら見た事が無い僕ですが、かなり面白かったです。

 先ず余計な説明が一切無い。短いカットが鮮やかに繋がって行ったり長回しが続いたり、その快い抑揚が全てを物語ります。日本映画って妙に丁寧で説明的な映像を並べ立てる事がままありますが、この映画は全くそんな事はありません。それが見ていて非常に気持ち良い。安達英志(赤井英和)が相手の拳に倒れる。ドクターが来る。手術を受ける。その次のカットでは髪の間に手術跡が走る頭部、そして退院の準備を終えた英志の姿がある。パンッパンッパンッと最低限の情報が繋がれる事によって「何がどうなったか」という情報が力強くこちらの脳内に入ってくる。
 美川憲一演じる北山次郎がまた良い味を出していますね。男の世界であるボクシングをパトロンとしてオカマが支えている。なんてあまりに「まんま」な構図ですがやはり揺るがない耽美さと強度があります。

 この映画はよくあらすじとして「一度は再起不能になったボクサー安達英志が、元日本チャンピオンのコーチ左島牧雄(原田芳雄)との出会いをきっかけに、もう一度トレーニングを始め復活しカムバック戦を迎える」みたいな感じで書かれる事が多いです。確かにストーリーはこの通りです。しかしこの文章を一読すると「ドロップアウトからの復活」というシンプルな熱血ストーリーに思えるし僕もそういう映画なのだろうと思って見ていたのですが、終盤のカムバック戦、そしてラストシーンを見て、「そんな簡単な話じゃない!」と打撃を受けました。

 英志がカムバックし四回戦ボーイとして戦う最初の相手は、かつての後輩である清田さとる(大和武士)です。清田は英志の頭の怪我を良く知っておりそして深く心配していた男です。実際に試合が始まっても、清田は英志の顔を打つ事が出来ずボディばかりを狙います。一方英志に取って清田は後輩ですから、元々の実力は清田より上です。
 これって、映画の最重要シーンとしては結構複雑な事になってると思うんです。清田からすれば相手の弱みを知っているわけだから「頭を狙えば」勝って不思議は無い。英志からすれば元々の実力を持ってすれば清田に勝つのは至極当然。清田が勝てば「英志は怪我のおかげで当たり前に復活が出来なかった」という話になるし、英志が勝てば「普通に後輩に勝った」話になります。どちらに転んでもスッキリしない結末になると思うんです。そんなに悲劇的な「敗北」を描きたい映画だったのか。はたまた単純な「復活/勝利」を描きたい映画だったのか。

 試合後半、清田はついに英志の頭を打ちます。それまで明らかに優勢だった英志は一瞬で弱って行き、どんどん清田に打たれて行きます。だんだん意識が朦朧としていくなか、英志はボクサーになるのが憧れだった少年時代の自分に戻ります。リングの上で戦う少年の英志
と清田。その妄想は少年の凄まじいラッシュに清田が圧されている物ですが、現実は全くの逆で英志はひたすらに清田にパンチを打ち込まれています。この映像はあまりに凄絶で、まるで絶命寸前に見る夢のようです。
 英志の姿を見てもう限界だと感じたセコンドは、英志に禁じられていたタオルを投げ込みます。タオルが空中を舞い、レフェリーがそれを認めた瞬間、英志は渾身の左フックを清田の頬に叩き込み、清田はダウン(恐らく)します。ここで映像はストップし、そのままスタッフロールが流れ始め、映画は終わります。

 だから試合の結果が解らないのです。ギリギリで英志が清田からノックダウンを奪ったのか、投げ込まれたタオルによって英志はリタイア扱いとなったのか。ただ画面には清田をダウンに追い込んだ英志の広い背中だけが映し出されています。
 このラストシーンを見て、この映画は「敗北」を描いたのでも「勝利」を描いたのでも無いと確信しました。英志はずっと、ボクサーになる事を夢見た少年のままだった。本人が言う通り(「俺の身体の何処を切ってもボクシングしか出てけえへん。」)ボクシング以外何も知らない男だった。劇中、英志は男の背中の夢を何度か見ます。トレーナーを脱ぐと汗に濡れたたくましい背中が現れ、そこから湯気が立ち上っている。映画後半で、実はその背中は英志が少年時代に見た、一人のボクサーの背中だった事が思い出されます。それは英志に取って憧れの背中でした。
 ただ相手を「どつく」。それだけが英志の人生であり、この物語を前進させるエンジンでした。だからこの映画は敗北でも勝利でもなく、英志の「執念」を描いた作品です。意識が朦朧とする中執念の左フックを打ち込んだ英志の背中と、憧れていたボクサーの背中を重ねて見る事が出来るでしょう。


 前述した通り僕は他のボクシング映画は見た事はありませんが、ここまで「執念」を美しく描いているのは素晴らしいのではないでしょうか。荒戸源次郎から気になって見た作品でしたが、見て良かったです。面白かった!


 風邪が完治するまで「風邪と日本映画」週間を続けます。今日また3本借りました。
 ・北野武『HANA-BI』
 ・周防正行『それでもボクはやってない』
 ・小津安二郎『晩春』
 『HANA-BI』と『それでもボクはやってない』は人気で全然レンタル出来てなかったものなので楽しみです。



 あと一昨日、私立恵比寿中学「ウィンターデフスター極上ツアー2012-2013 〜KING OF GAKUGEEEEKAI of チュウ of LIFE〜」初日のららぽーと柏の葉に行ってきました!

 無銭エリアからでしたがかなりよく見えて、ライブも本当に素晴らしくて感動感涙でした。より一層エビ中が好きになったイベントでした。これからツアーが大変楽しみです。がんばりまやま!


 では。






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