2012年8月18日土曜日

山下敦弘『松ヶ根乱射事件』


 面白かった。劇中、事はいろいろと起こるのだがほとんどの事が大きな展開には結びつかない。むしろその開かない蕾の群生が非常にジメジメしていて鬱屈していて、それが映像としての「地方集落の閉鎖的な生々しさ」を支えている。
 とにかく生々しい。誰も演技しているように見えない。是枝裕和『歩いても 歩いても』なんかも誰も演技しているように見えない映画だったけれども、『松ヶ根乱射事件』のそれは「ありのままの自然さ」ではなく「エグいほどの生々しさ」を感じさせる。血の匂い(血液であり血縁であり)、汗の匂い、精液の匂いが画面から滲み出てくる。

 タイトルは『松ヶ根乱射事件』だけれど、この作品で起こる主な事件は轢き逃げと、謎の金塊と生首の発見のみ。では乱射はどこにあるかと言えば、ラストシーンで警官である主人公が拳銃をそこらに発砲しまくる所にしかない(しかも恐らくは大して物も壊れてないし人が死んだりもしていないと思われる)。
 だけれどこの映画の主題はその乱射にある。あらゆる鬱屈に耐えきれなくなり遂には集落の水道に殺鼠剤を混ぜるテロまで企てるがそれも頓挫し、虚空に向かって拳銃を乱射して寂しいカタルシスを得る主人公。その「何もかもをブチ壊したい衝動と耐えきれない鬱屈」がこの映画の主題だと思うし、だからこそこの映画は『松ヶ根乱射事件』なのだと思う。

 山下敦弘作品は初めて見たけど、その魅力が解った気がするな。『マイ・バック・ページ』や『苦役列車』も見たい!

demioさんの『苦役列車』評
http://d.hatena.ne.jp/ganko_na_yogore/20120723/1343050822


0 件のコメント:

コメントを投稿